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広島地方裁判所 昭和44年(行ウ)27号 判決

原告 畝山仁志

右訴訟代理人弁護士 甲元恒也

右同 中村道男

右同 竹下重人

被告 広島国税局長 山崎敬一郎

右指定代理人 菅野由喜子

〈ほか三名〉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、双方の申立

原告は、「被告が原告に対し、訴外笠岡ブルドーザー工事有限会社の滞納国税につき、昭和四三年九月二一日付納付通知書でした第二次納税義務の告知処分は、これを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。

二、原告の請求原因

(一)  被告は、原告に対し昭和四三年九月二一日付納付通知書をもって、訴外笠岡ブルドーザー工事有限会社(以下滞納会社という)の滞納税金合計四、〇六九、三三〇円につき、原告が納付すべき金額の限度額を一七、五一三、七〇〇円として第二次納税義務を課する告知処分(以下本件処分という)をした。

(二)  原告は、同年一〇月一〇日被告に対し右処分について異議申立をしたところ、被告は、昭和四四年七月一一日原告が第二次納税義務を負担する納付限度額を一二、九二二、〇〇〇円とする旨原処分の一部取消の決定(以下本件異議決定という)をし、同月二三日付書面をもって原告にその旨通知し、同書面は同月二四日原告に到達した。

(三)  しかし本件処分は右異議決定による一部取消後もなお次の理由により違法である。

(1)  被告の原告に対する昭和四三年九月二一日付納付通知書には、原告が第二次納税義務を負う根拠規定として「国税徴収法第三九条」と記載され、備考欄には「岡山県浅口郡里庄町大字浜中字笹山宅地一、〇〇四・九五m2外一一筆および笠岡市二番町四番一〇号の宅地、同町家屋番号四番一〇の家屋に対するもの」と記載されていた。ところで国税徴収法三二条、同法施行令一一条によれば、納付通知書には「その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」を記載すべきものとされているが、その趣旨は単に規定の条項のみを記載すれば足りるということではなく、第二次納税義務の成立要件を規定した法条のうちで該当する条項及び該当要件を記載させる趣旨であると解すべきであるから、国税徴収法三九条所定の第二次納税義務を通知する書面においては、納税者が行なった処分の時期及びその内容、第二次納税義務者の受けた利益、納税者と第二次納税義務者との関係等について被通知者が書面自体によって理解し得る程度の記載が要求されるのである。ところが前記納付通知書に記載された文言によっては、原告は第二次納税義務を負う理由を理解することができないから、本件納付通知書の記載は不備であり、従って右納付通知書による本件処分は違法である。

(2)  原告は、昭和四二年一〇月二五日滞納会社から別紙物件目録記載の各不動産(以下本件不動産という)を代金一、二〇〇万円で譲受け、同年一一月二九日いずれも所有権移転登記を経たが、本件不動産の譲受価格は近隣の取引事例を参考にした当時の適正な時価によるものであって、「無償又は著しく低い額の対価」(国税徴収法施行令一四条)によって取得したものではないから、本件処分はその要件を欠くものであって違法である。

(3)  被告は本件処分においては本件不動産の譲受当時の評価額を一九、五一三、七〇〇円としたにもかかわらず本件異議決定においてはその評価額を二四、九二二、〇〇〇円と増額しており、本件不動産の評価額を原告に不利益に変更しているから、異議決定は行政不服審査法四七条三項に違反し、無効である。従って原告による本件不動産の譲受当時の時価としては一九、五一三、七〇〇円が維持されているものというべきところ、原告の譲受額一、二〇〇万円は時価の六〇パーセントを超えるから、「著しく低い価格」による譲受けであるとすることはできない。

(四)  よって原告は、本件処分の取消を求める。

三、被告の答弁及び主張

(一)  請求原因(一)(二)の事実は認める。同(三)の事実については(1)のうち、本件納付通知書に原告主張の記載があったこと、同(三)の(2)のうち原告が昭和四二年一〇月二五日滞納会社より本件不動産を代金一、二〇〇万円で譲受け、同年一一月二九日その所有権取得登記を経たことは認め、その余は争う。

(二)  第二次納税義務者に対する納付通知書の記載事項を規定した国税徴収法施行令一一条一項四号は、「その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」を記載すべきことを規定しているのであるから該当法条を記載すれば足り、従って「国税徴収法第三九条」と記載した本件納付通知書には記載上の瑕疵はない。

かりに「国税徴収法三九条」と記載した程度では足りないとしても、被告は、原告に対する昭和四四年一〇月一五日付「納付通知書の一部訂正について」と題する書面により、本件納付通知書の備考欄の記載事項を補完し、本件処分の具体的根拠を説明しているのであるから、右瑕疵は治愈されている。

(三)  滞納会社は、昭和四三年九月二一日当時法定納期限が昭和四二年九月一一日までに到来した国税(源泉所得税、法人税及びこれらの附帯税)合計四、六四八、〇九四円を滞納しており、被告は、滞納会社に対し滞納処分を執行したが、同会社には滞納国税を徴収するに足る資産がなく、徴収すべき額に不足すると認められる状態にあったところ、その原因は、滞納会社が昭和四二年一〇月二五日原告に対して、本件不動産を当時の時価が二四、九二二、〇〇〇円であるにもかかわらず、わずか一、二〇〇万円という著しく低い価額で譲渡したためであった。

ところで滞納会社から原告に対する本件不動産の譲渡は、同会社の滞納国税のいずれの法定納期限についても、その一年前の日以後の譲渡に該当し、かつ滞納会社は、出資総額を一五〇万円とする会社で、その代表取締役守屋柳一の出資額は九〇万円、その長男守屋弘正及びその妻守屋翠の出資額は各五万円であり、これら三名の出資額計一〇〇万円は同会社の出資総額の一〇〇分の五〇以上になるから法人税法(昭和四五年法律第三七号による改正前のもの)二条一〇号イに規定する同族会社でありまた同族会社を判定する基礎となった右守屋翠は原告の実姉であるから、原告は滞納会社の親族その他の特殊関係者に該当する。

そこで被告は、原告が受けた利益の限度である一二、九二二、〇〇〇円につき原告に第二次納税義務を課したものであるから、本件異議決定により維持された限度において本件処分は適法である。

(四)  原告の異議申立に対する審査の対象は、原告の納付限度額を一七、五一三、七〇〇円とした本件処分が適法か否かということであるから、納税限度額を一二、九二二、〇〇〇円と原告の利益に変更した本件異議決定は何ら行政不服審査法四七条三項に違反するものではない。

四、被告の主張に対する原告の答弁及び反論

(一)  被告主張事実のうち、被告が昭和四四年一〇月一五日付「納付通知書の一部訂正について」と題する書面により、本件納付通知書の備考欄の記載事項を補完し本件処分の具体的根拠を説明したこと、滞納会社の滞納税額、その法定納期限、被告が滞納会社に滞納処分を執行したが、同会社に滞納国税を徴収するに足る資産がなかったこと、滞納会社が被告主張の事由によって同族会社に該当することは認め、その余は否認する。

(二)  本件不動産のうち、別紙物件目録(一)記載の宅地(以下甲物件という。)については、東側隣接地所有者と境界について紛争があること、砂防用溜池を設ける必要があること、甲物件の国道側は、直接国道に接する部分の距離は短かく、国道との間に帯状の国有地が介在している部分が長く、また国有地との境界附近に数本の電柱が存するため、宅地使用上障害となること、甲物件内に存する農道三本を廃止し、これに代るべき農道を新たに甲物件の西端境界沿いに南北にわたって敷設する必要があることといった減価要因があるから、甲物件の評価については、これらの事情を斟酌すべきである。

(三)  不動産の譲受価格が著しく低い対価であるか否かの判定時期については、取引のなされた時から口頭弁論終結時までの間に、右低額対価性を左右する事情が存し得るから、口頭弁論終結時をもってその判定時期と解すべきであり、従って本件譲渡行為時以後に原告が本件不動産に投下した費用をも考慮して、著しく低い価額による譲渡か否かを決定すべきである。

五、証拠関係≪省略≫

理由

一、請求原因(一)、(二)の事実、滞納会社が、昭和四三年九月二一日当時法定納期限が昭和四二年九月一一日までに到来した国税(源泉所得税、法人税及びこれらの附帯税)合計四、六四八、〇九四円を滞納しており、被告において滞納処分を執行したが、同会社には滞納国税を徴収するに足る資産がなかったこと、並びに同会社が昭和四二年一〇月二五日原告に対し本件不動産を一二〇〇万円で譲渡したことはいずれも当事者間に争いがない。

六、ところで原告は、本件処分については異議決定による一部取消後においてもなお違法がある旨主張しているので、その当否について以下検討する。

(一)  納付通知書の記載について

被告の原告に対する昭和四三年九月二一日付納付通知書に原告が第二次納税義務を負う根拠規定として「国税徴収法第三九条」と記載され、備考欄に「岡山県浅口郡里庄町大字浜中字笹山宅地一、〇〇四・九五m2外一一筆および笠岡市二番町四番一〇号の宅地、同町家屋番号四番一〇の家屋に対するもの」と記載されていたことは当事者間に争いがない。

ところで国税徴収法施行令一一条一項は、第二次納税義務者に対する納付通知書の記載事項として、滞納者の氏名、滞納額、第二次納税義務者から徴収しようとする金額等の外、四号として「その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」を記載すべきものとしているが、その目的の一つは課税根拠を相手方に知らせることによってその不服申立に便宜を与えるためと解されるから、納付通知書には第二次納税義務を認めた原因としての具体的事実を記載することが望ましいことはいうまでもない。しかし本件に関係ある国税徴収法三九条所定の第二次納税義務についていえば、同条はもともと詐害行為に当る行為があった場合その行為の取消が行なわれたと同一の効果を行政処分によって実現するため設けられた規定であるから、納付通知書に条文の記載があれば滞納者と第二次納税義務者間の行為の具体的内容が納付通知書上明らかでなくても、その行為の当事者としての第二次納税義務者としては国税徴収法施行令一一条一項一号ないし三号所定の記載と相まって課税理由は自ら理解できる筈であるし、また文理解釈上も「その者につき適用すべき第二次納税義務に関する規定」とは第二次納税義務を定めた法条のことを指称するものというべきであるから、前記施行令一一条一項四号所定の記載としては、「国税徴収法三九条」と記載すれば足りるものと解するのが相当である。

しかも本件の場合納付通知書に記載された前記備考欄の記載によれば、他の記載と相まって原告は原告が滞納会社から本件不動産を譲受けた価格が時価よりも著しく低いことが課税理由となっていることを知り得たものと推認できる。

したがって納付通知書の記載が不備であるとの原告の主張は採用できない。

(二)  本件不動産の譲渡価格が著しく低い額の対価か否かについて

(1)  まず滞納会社が本件不動産を譲渡するに至った経緯については、≪証拠省略≫によると、滞納会社が原告に対し本件不動産を譲渡したのは、原告の姉婿で訴外東洋ベントナイト株式会社の代表者である訴外守屋弘正が同会社の資金を父守屋柳一が名目上の代表者で実質的には守屋弘正が経営の衝に当っている滞納会社外一会社に流用しているということを理由に昭和四二年九月東洋ベントナイト株式会社内において代表者守屋弘正と出資者間に紛争が生じたことから、解決策として滞納会社の所有財産を処分してその代金を東洋ベントナイト株式会社と滞納会社の運営資金に充てる必要が生じたためであって、処分価格については運営資金として必要な額等を考慮して一、二〇〇万円と定め、右守屋弘正の妻翠の実弟に当る原告に譲渡したことが認められる。

(2)  そこで進んで本件不動産が譲渡された昭和四二年一〇月二五日当時の時価について検討するのに、≪証拠省略≫を総合すると、本件不動産のうち甲物件及び別紙物件目録(二)記載の土地(以下乙物件という)は、笠岡市を含む備後工業特別地域と倉敷市水島地区を中心とする岡山県南部新産業都市の中間に存する同県浅口郡里庄町西南部浜中地区のうち国道二号線沿いの地域であること、里庄町の人口は、同町が昭和四〇年三月前記工業特別地域に編入されたことと、また昭和四二年日本鋼管株式会社及び関連企業が近隣の福山市に進出したことによって増加傾向にあり、同町の国道二号線沿いには機械、鉄鋼、土木、食品等の事業所が多数設置されるようになったこと、甲物件の所在する地域は丘陵地であって大規模な宅地化は困難ではあるが、開発用地が少ないこと、交通の便が良いこと、電気、上水道の引込が可能であることなどから将来は国道二号線沿いは小規模商工業用地として、周辺は住宅用地として発展が期待されること、甲物件は三角形状の造成土地で、その北側は建設省用地を挾んで国道二号線に面しており、その土地内には小山状の高地ないし土砂の堆積がある外、大部分は凹凸のままの不整地で、土地中央部より南側は湿地状を呈している土地であること、甲物件とその東側に隣接する岡山県浅口郡里庄町字浜中一二一〇の一、同所一二一〇の二との間の境界については、守屋弘正が、隣地所有者の承諾を得ることなしに公図上の境界よりも更に東側に有刺鉄線柵を設置してそれが境界線であると主張するために紛争が生じていたが甲物件の面積は少なくとも不動産登記簿上の面積である別紙物件目録記載の地積を下回るものではないこと、また甲物件内には送電用支柱が数本存するが、これらはいずれも所定の手続を経ることにより移転が可能であること、他方甲物件においては国道二号線の新設工事用として土砂を採取したあとに残存する土砂が降雨によって流出するので、これを防止するため、南北に七メートル、東西に一〇メートル位の池と直径約五メートルの池が設けられていることや、国道二号線との間に建設省用地が介在し国道には部分的に接するに過ぎないこと、更に現状は雑草におおわれた道らしきものがあるのみで現実には使用していない農道が公簿上三本存し、これらについては廃止または他へ移転する手続がとられていないこと等の減価要因があること、次に乙物件のうち公簿上保安林であるものについてはその解除手続がとられていないこと別紙物件目録(三)記載の物件(以下丙物件という)については、土地は角地ではあるが、建物が存するため使用収益上の制約があるし、建物自体は仮設建物であること、財団法人日本不動産研究所は甲物件の昭和四四年一月二三日当時における時価を三、一六〇万円であると鑑定していること、ところで甲物件附近の地価上昇率が高かったことから右研究所公表の「六大都市を除く地域別市街地価格推移指数表」により算出される昭和四二年一〇月から昭和四四年一月までの地価上昇率の二倍の上昇率を示したものと前提して右鑑定価格から昭和四二年一〇月当時の時価を推算すると二、二〇〇万円を超えること、鑑定人高野百三は昭和四二年一〇月二五日当時における時価として甲物件は二一、〇五二、〇〇〇円(三・三m2当り約一〇、一八九円)、乙物件は三、〇七三、〇〇〇円(三・三m2当り約一、六三八円)、丙物件は二、九五七、〇〇〇円で本件不動産全部については二七、〇八二、〇〇〇円であると鑑定していることが認められる。また≪証拠省略≫によると、株式会社富士銀行は、昭和四一年七月末頃甲物件を担保として融資するに当り甲物件の価格を二、二九九万円余と評価し、また笠岡信用組合は同年九月頃乙物件を担保として融資するに当り乙物件の価格を一、三〇〇万円余と評価していることが認められる。

以上の認定事実に≪証拠省略≫によって認められる近隣土地の売買事例、殊に本件不動産の譲渡が行なわれた昭和四二年一〇月二五日に時期的に接近する同年一二月一一日に田五七一坪が五八六万円(三・三m2当り一〇、二六二円余)で売買された事例のあることを斟酌すると、昭和四二年一〇月二五日当時における本件不動産の価格は少なくとも二、五〇〇万円を超えるものであると認めるのが相当である。≪証拠省略≫によると、株式会社西日本総合鑑定所は、甲物件の昭和四二年一〇月二〇日当時における価格について、一、五一〇万円である旨の鑑定をしていることが認められるが、この鑑定意見は採用しない。

しかして本件不動産の譲渡時の価格及び前記認定した本件不動産の譲渡に至る経緯ならびに原告と滞納会社との関係等諸般の事情を考慮すると、原告が滞納会社より本件不動産を時価をはるかに下廻る一、二〇〇万円で譲受けた行為は、国税徴収法施行令一四条にいう「著しく低い額の対価による譲渡」に該当するものというべきである。

なお、原告は、本件不動産の譲渡行為が著しく低い価格によるものであるか否かの判定は、口頭弁論終結時を基準としてなすべきである旨主張するが、右判定に際し、譲渡行為時以後の事情を考慮するとすれば、一旦著しく低い価格による譲渡がなされても、その後不動産の時価の変動等により口頭弁論終結時においては「著しく低い額の対価」に該当しない場合を生ずることになり、それでは譲渡行為によって過度の利益を受けた第三者に第二次納税義務を課すことにより、租税の徴収を公正に行わんとする国税徴収法三九条の趣旨に照らし、納税告知処分の安定性、妥当性を著しく損うこととなるから、国税徴収法三九条にいう「著しく低い額の対価による譲渡」に該当するか否かについては、当該譲渡行為がなされた時点をその判定時期とすべきであって、原告の主張は採用できない。

(三)  不利益変更禁止について

≪証拠省略≫によると、被告は本件処分において本件不動産の時価を一、九五一万三、七〇〇円と評価したが、本件異議決定においてはその評価額を二、四九二万二、〇〇〇円と改めたことが認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで原告は、本件異議決定において、本件処分よりも本件不動産の評価額を増加させたことをもって行政不服審査法四七条三項に反する旨主張するのであるが、本件のように第二次納税義務者に対し、行政庁の納税告知処分がなされ、これに対する異議申立があった場合における異議決定庁の審査の対象は、原処分において定めた原告の納付限度額の当否であって、同法四七条三項の定める不利益変更禁止は、納付限度額について原処分所定額を超える変更を許さないというにとゞまり、処分の前提である不動産の評価については、異議決定庁において原処分庁よりも高額に認定することは何ら妨げないものと解すべきである。本件についていえば、本件処分における原告の納付限度額は一、七五一万三、七〇〇円であり、本件異議決定におけるそれは一、二九二万二、〇〇〇円である(この点は当事者間に争いがない。)から、何ら原告に不利益に変更したものということはできず、従って被告が本件不動産の評価額を本件処分と本件異議決定とで違えたからといって、本件異議決定が行政不服審査法四七条三項に違反するものということはできない。

三、ところで滞納会社が本件不動産を原告に対価一、二〇〇万円で譲渡したのは昭和四二年一〇月二五日であって、滞納会社の滞納国税合計四、六四八、〇九四円のうちの最も遅い法定納期限である昭和四二年九月一一日より一年前の日以後であり、また右対価は、二、五〇〇万円を超えた時価に比し著しく低い額の対価であるというべきところ、滞納会社が出資総額を一五〇万円とする会社で、そのうち代表取締役守屋柳一の出資額が九〇万円、その長男守屋弘正及びその妻翠の出資額が各五万円であり、これら三名の出資額計一〇〇万円は同会社の出資総額の一〇〇分の五〇以上になることは当事者間に争いがないから、同会社は昭和四五年法律第三七号による改正前の法人税法二条一〇号イ所定の同族会社に該当し、また原告は右守屋翠の実弟で国税徴収法三九条にいう滞納会社の特殊関係者に該当するから、原告は本件不動産の譲受けによって受けた利益の限度、すなわち少くなくとも一、三〇〇万円の限度で第二次納税義務を負うことになる。従って本件異議決定によって維持された限度においては、本件処分には違法はなく、適法であるということができる。

四、結論

以上の説示によると、原告の本訴請求は理由がないことに帰するから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 安次嶺真一 裁判官高升五十雄は、転任につき署名押印することができない。)

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